最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
茫然と目で追いかけていると、やや不機嫌そうに目もとをひくつかせた仏頂面の志遠さんが私たちの前までやってきて足を止めた。

「志遠さん……?」

こんなところにどうして彼が。ダリルも驚いたようで、目を大きく見開いてチェアから腰を浮かせる。

「シオン! どうしてここに? 今は会議の時間では――」

「ダリル、すまない。少しだけふたりきりにしてもらえるか。陽芽に話がある」

ダリルは愕然としていたが、志遠さんの顔つきが真剣なものだと気づくと、黙って席を外した。

志遠さんは空いていたチェアのひとつに腰かけ、私に向き直る。

「陽芽」

はっきりと名前を呼ばれて、私はびくりと肩を震わせた。

仕事中だったはずなのに、突然こんな場所までやってきてあらたまって話だなんて。

いったいなにを言われるのだろう。なんだか怖い。

「俺は昨夜、『俺の傍にいる限り、お前はそのままでいい』と言ったよな」

「はい……」

「君は『イギリスにいる間は』と解釈した」

「……ええ」

話の先がさっぱり見えなくて、膝の上で手をにぎる。もしかしてお説教? 

すると、志遠さんは短く息をつき、苛立たしげに目を眇めた。

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