最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
その頃、私たちの周囲では不思議なことが起きていた。

通行人が私たちをまじまじと覗き込んでいく。中には足を止めて指を差す人、こそこそと小声でささやく人までいた。

犯罪被害に遭ったかわいそうな観光客だと思われているのか、あるいは私たち自身が犯罪者だと間違われてしまったのか。

だが、奇異の眼差しというよりはもっと好意的な反応だ。まるで街中で芸能人を見つけてラッキーというような――。

……まさかこの男性、有名人だったりする?

警察官としゃべる彼をまじまじと観察して、もしかしてと思う。

彼はすれ違ったら二度見してしまうほどの美貌の持ち主だ。

俳優か、モデルと言われても納得できる。スッと伸びた背筋と優雅な所作を考えると、ダンサーという線も捨てがたい。

そんなとき、私たちを囲んでいた女性のひとりが黄色い声をあげた。

「サー・シオン――!?」

すると男性が振り向き、優雅ににこりと微笑んだ。

おお、やっぱり芸能人なんだ、と私は大きく目を見開く。

サー・シオン――それがこの男性の名前らしい。『サー』が名前で『シオン』が名字だろうか。

『サー』だなんて少し変わった名前だ、やはり日本人ではないみたい。

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