最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
志遠さんが携帯端末のサイドキーを押すとピッという電子音が響き、次いでザーという静かなノイズとともに、くぐもった声が再生された。



『――なによ、端末なんて取り出して。まさか、してるところを撮影する気?』

『違う。潔白を証明するためだ。離れてくれ。俺は君を抱くつもりはない』

『そ、そんなもの……! すぐに消しなさい! 従わないなら、私、あなたに乱暴されたってお父様に――』

『言っておくが、この録音はクラウドにリアルタイムで保管されている。この端末を壊したところで無駄だ。君が横暴なことをするようなら、秘書に録音データを開示するよう指示する。さぁ、その手を放してくれ。ネクタイが乱れる』

『っ――!』



プツッとノイズが途切れ、音声が止まる。

当然英語なので、なにを言っていたかは聞き取れず、志遠さんに会話の内容を訳してもらった。

「俺の言っていることが信じられないなら、ダリルに通訳を頼もうか?」

「……いえ、大丈夫、です」

ふたりの声のトーンから、色気もなにもない言い争いであることだけは私にもわかる。

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