最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
「……普段から狙われる立場にいる。自衛の策を用意しておかなければ、いつ足もとをすくわれるかわからないからな」

そう言って彼が携帯端末を胸ポケットへしまう。

私は安心したのか、うれしいのか、よくわからないけれど気が抜けて、目にじんわりと涙がにじんだ。

「信じてくれたか?」

「……ごめんなさい」

あなたを疑ってしまって。

言葉にできずにいると、志遠さんは指先を私の目の下に滑らせた。

「不安にさせてすまない。こんなときに不謹慎だが……うれしいよ。心配してもらえるなんて」

心配なんかじゃない。これは――醜い嫉妬だ。

彼の腕が伸びてきて、そんな汚い私の心ごと包み込んでくれる。

その優しい抱擁に、私は心の底から安堵して、気が付けば彼の背中に手を回していた。

「陽芽。もしも君の中に恋人への未練が残っているなら、俺がすべて消し去ってやる」

耳もとで熱い決意を語る彼に、私は腕に力を込めて静かに答える。

「未練なんてありません」

すでに心は志遠さんで埋め尽くされている。

私はきっと、志遠さんのことが好きなのだ。

今ならわかる。出会ってすぐに魅了された。恋愛どうこうではなく、人として、男性として憧れた。

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