最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
隣り合った席でパーテーションを開きペアシートのように連結して、ふたりで寝転ぶ。

きゅっと手を握り合うと、志遠さんは熱っぽい眼差しを向けてきた。

「志遠さん、ついてきて本当に大丈夫だったんですか? お仕事は……」

「安心しろ、きちんと調整をつけてある。それより君には『寂しい』とか『離れたくない』というような感傷はないのか?」

「そんなの、ただのわがままになってしまうじゃありませんか」

言ったところで志遠さんを困らせるだけだし、むしろ今この時間を共有していることが奇跡である。これ以上を望むのは贅沢ってものだ。

「やはり君はなにも欲しがらないんだな」

志遠さんがどこか寂しそうにぽつりとつぶやく。『ほしいものはなんだ』と尋ねられたことを思い出し、私は首をかしげた。

「あの質問には、どんな意味があったんですか?」

「……いや。たいした意味はないんだが」

志遠さんがごまかすように言い繕う。無理に聞き出すことでもないと、私は目を閉じた。

「私、こんなふうに志遠さんと一緒にいられるなんて、思ってもみなかったので」

「ああ。奇跡の連続だ。俺も自ら結婚を望むなんて、夢にも思わなかった」

そうだったんだ……と私は心の中で相槌を打つ。繋いだ手からぬくもりが流れ込んでくる。

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