最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
「戸締りだけはきちんとして。また連絡する」

「はい……どうか、お元気で」

私はよろよろと志遠さんのあとを追いかけ、玄関で彼を見送った。

ドアの鍵を閉め、言いようのない孤独感に襲われる。

……ああ、ひとり暮らしってこんなに静かだったんだ。

これまではあたり前だった静寂に、今では違和感を覚える。冷蔵庫の音が妙に耳に痛い。

あまり他人に執着することなく生きてきた。結婚詐欺に遭っている間でさえ、恋人に会えなくて寂しいなんて思った記憶がない。

両親に先立たれたことで、人は人、他人は他人、それぞれの人生を生きていて、消えたり現れたりするのは当然のことだと割りきっていた。

寂しいなんて感情を抱くだけ無駄。結婚相手といえど、お互いの人生をそれぞれ歩んでいくもの、どこかドライにそう思っていた。

……でも、なんだかちょっと、スカスカする……。

一週間近く彼と一緒にいたからだろうか。静まり返るこの部屋が、なんだか無性に物悲しい。

……寂しいなんて思ったの、いつぶりかな。

まるで失っていた感情を取り戻したかのようで、悲しいのにどこかうれしかった。




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