最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました

あれ？と首をかしげる。私は彼のことを名字で呼んだつもりだったのだが。

「あの、『サー・シオン』さんですよね？」

「そうだが――ああ！」

すると、彼はひらめいたように頭上を見上げ、やがて口もとを押さえてプッと吹き出した。

「サーは名前じゃない。敬称だ」

「敬称……ミスターのようなものですか？」

「ああ。ミスターよりも限られた人間に対する敬称――私は英国王室から騎士(ナイト)の称号を与えられている」

「ナイト！？」

頭に浮かんだのは、銀色の鎧に身を包んだ、白馬に跨る剣士。

……いや、今どきそんな格好はありえないだろう。ぶんぶんと首を横に振るも、こちらの考えを見越したのか、彼が冷ややかな目をする。

「今、甲冑を着てガチャガチャ歩く騎士を想像しただろう？」

図星だ。思わずサッと目を逸らすと、彼は早々にあきらめ、嘆かわしげなため息を漏らした。

「騎士とは英国に貢献した人間に与えられる名誉称号だ。芸術家やデザイナー、アスリートなど、国籍を問わず様々な人間に与えられてはいるが、私の場合は経済の分野で評価された」