最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
彼の笑顔の根底には、イギリスを好きになってほしいという願いが込められているような気がした。

彼は自らに称号を与えてくれたこの国をきっと大切に思っているのだろう。

「つまり、イギリスは誇りを重んじる国だということだ。君を助けるのも騎士という名誉を授けられた私の義務。……安心しなさい」

そう言って、私の頭をポンと叩く。

不安そうな顔をしていたから慰めてくれたの? 優しくするのも騎士という称号を授けられた彼の義務?

「話が長くなったな、行こう」

彼がひと足先に車から降りて、私に手を差し出す。

「まだきちんと名乗っていなかったな。私は御子神(みこがみ)志遠だ。志遠でいい」

御子神と聞いてクラッとした。御子神グループと言えば日本で三指に入る旧財閥系の大企業だ。

そんな人を下の名前で呼ぶなんて、恐れ多くてできるわけがない。

それに、できれば私のことも名字で呼んでもらいたい。

「では、御子神さん――」

手を借りて車を降りながらさりげなく訂正すると、彼は不満だったのか「おい」と目を吊り上げた。

「……なんと呼ばれようが私はヒメと呼ぶぞ」

ギョッとする私の手を引いて、彼は大使館の入口へ向かう。

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