最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
「名前で呼ばれるの、あまり好きではないんですよ」

「両親から授かった名前だろう。なにが嫌なんだ」

「……『ひめ』って、響きだけ聞くと『お姫様』の『姫』みたいでしょう?」

多くの人は、『ひめ』と聞いて『姫』を連想する。響きがかわいらしすぎて、私にはとても似合わない。

「子どもの頃、からかわれたことがあるんです。私、そんなにかわいくないですし」

それ以来、下の名前で呼ばれると、からかわれているような気分になる。

すると突然彼が立ち止まり、私の顎に指をかけた。高い背をかがめて覗き込んでくる。

驚きで私は声を出すこともできず、目の前に迫った美貌を見返した。

「君の言う『かわいい』の定義がわからないな。絶世の美女とは言わないが、充分愛嬌のあるかわいさを持っていると思うが」

ドキリと鼓動が跳ね上がる。美人な男性にかわいいと言われてしまった……!

一瞬舞い上がったものの、すぐにいやいやいやと自分をたしなめた。

愛嬌のあるかわいさってなに? ゆるキャラみたいな感じだろうか? それとも、小動物的な?

必死にかわいいの定義に考えを巡らせていると、彼は再び大使館の入口に向けて歩みを進めた。

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