最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
「ああ。安定しているよ。本当は飛行機にも乗れるくらい調子がいいんだ。主治医が心配性なだけだよ」

「頼むから主治医の指示を守ってくれよ」

「ああ。我が息子も同じくらい心配性だったな」

晴は初めて見る場所に興味津々のようだ。目をぱっちりと開けて、きょろきょろとあたりを見回している。

「父さん。今はおとなしいけれど、そのうちとんでもない声で泣くから。驚かないでくれ」

「わかっているつもりだよ。志遠が赤ちゃんの頃も、そりゃあ泣き声がひどかった」

大昔のことを引き合いに出され、志遠さんが気恥ずかしそうな顔をする。

しばらくして、そのけたたましい泣き声をお父様も耳にしたけれど、泣き声すらかわいいとばかりににこにこして見守っていた。



その日の夜。サロンのソファで歓談していると、志遠さんのお父様があらたまって切り出した。

「陽芽さん。私はあなたにずっとお礼が言いたかった」

「お礼、ですか?」

「ええ。志遠はずっと縁談を嫌がっていましたから、もしかしたら孫を見る機会は訪れないのではないかと。ですが、あなたが志遠の心を開き、命を授かってくれた」

志遠さんが晴を抱きながら苦笑する。

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