最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
「漢字は? そのまま姫君の『姫』なのか?」

「あ、いえ。太陽の『陽』に、草の芽の『芽』です」

「……素敵な願いが込められているじゃないか」

パチッと目を瞬いて、彼のことを見つめる。

「名前は親御さんの願いだ。親孝行したいというなら、まずはその名に恥じぬ人間になれ」

そう言って私の頭の上に手を置き、ぞんざいになでまわす。

両親の願い……?

この『陽芽』という名前は両親が一緒に考えて作ったと聞いている。ふたりは私にどんな人間に育ってほしいと願ったのだろうか。

大使館内に足を踏み入れたところで、彼はようやく私の手を解放した。

「とにかく私のことは志遠と呼べ。荷物が返ってきてほしければな。君は私の『友人』なんだろう?」

私はぐっと押し黙る。そういえば、私は彼の友人ということで特別待遇を受けているんだった。そう言われてしまっては、従わないわけにはいかない。

彼――志遠さんがロビーに立つ大使館職員に目配せをすると、職員は慌てた様子で駆け寄ってきた。

「みなさん、志遠さんの顔を知っているんですね。街の人や警察の人、大使館の人まで」

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