最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
「よかった~……」

たかが写真ではあるけれど、私にとっては思い入れがある。母が亡くなってから、伝えたいことはすべてこの写真に向かって話していた。

お金なら働いてまた稼げばいい、スマホもまた買えばいい。でも、私をずっと見守ってきてくれた〝母〟は世界にこれひとつだ。

なにより、母のために来たロンドンで、母をひとり置いて帰国するのは悲しすぎる。

「……君は不思議な子だな」

声に振り向くと、志遠さんは穏やかな表情で私を見つめていた。

「貴重品がすべて奪われたんだぞ。そこは普通、落胆するところじゃないのか?」

「大事なものがちゃんと戻ってきたんですから、喜ぶところですよ」

私が笑って遺影を見せると、彼はあきれたように苦笑する。楽観的な子だなぁとでも思っているのかもしれない。

「本当に大切なものは、お金で買えるものではないと思いますよ」

それに志遠さんだって、遺影を奪われたと言ったとき、一緒に犯人を追いかけようとしてくれたではないか。

彼はくつくつと含み笑いをして、眩い瞳を私に向ける。

「ああ、まったくその通りだ」

彼が私の頭に手を載せて、ポンポンと弾ませた。

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