最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
「君の意見に同意する。賛同してくれる人は少ないだろうが」

驚きとともに、ほんのり胸が温かくなる。初めて彼とわかり合えた気がして、なんだかうれしい気持ちになった。

しばらくすると、部屋に年配の大使館職員がやってきた。堂々とした佇まい、品のいいスーツにポケットから覗くチーフ、他の職員とはあきらかに雰囲気が違っていた。

志遠さんは私の耳もとで「彼は特命全権大使の森永氏だ」とささやき、ソファから立ち上がった。

全権大使というくらいなのだからこの大使館で一番偉い人なのだろう。そんな人までわざわざ足を運んでくれるなんて。

私は激しく恐縮しながらもピシッと姿勢を正して立ち上がる。

大使は志遠さんと英語で挨拶を交わすと、私に向き直って両手を差し出した。

「大使の森永です。わざわざイギリスまで来てくださったというのに、痛ましい犯罪に遭われたとのこと、心苦しくてなりません」

とんでもなく偉い人に低姿勢で来られたので、私はわたわたしながら両手を握り返す。

「と、とんでもありません! 私の不徳の致すところで――」

「こちらこそご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

私の言葉を遮って、志遠さんが大使に笑顔で一礼した。

私があまりにいっぱいいっぱいだったからフォローしてくれたのだろう。
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