最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
悪態をつきつつも私の意を汲んでくれるのだから、志遠さんは案外お人好しなのかもしれない。

「私のように全財産を盗まれた人は、みなさん大使館にお世話になるんでしょうか?」

「それはない。君が私の知り合いだというから、特別に申し出てくれたのだろう」

「では、私のように無一文になってしまった人はどうするんです?」

「日本にいる親族に送金してもらうことが多いようだが――あてはあるか?」

私は頬を引きつらせてうつむく。両親はすでに他界。親戚はあまりにも疎遠で、突然『海外にお金を送ってほしい』なんて言えるような間柄ではない。

ああ、私はイギリスの中だけでなく、全世界で孤立無縁のようだ。

――いや。ちょっと待て。

ふと頼れる人物を思いついて、私は目を輝かせて志遠さんを見返した。

「います! お付き合いしている人に連絡を取れば、送金してもらえるかも」

「……君、恋人がいるのか」

彼の顔に嫌悪感が増す。その顔からは『こんな女性とよくもまぁ付き合えたものだ』という、褒められていない類の感心が滲み出ていた。

「……いけませんか?」

「……いや。好みというのは人それぞれだから」

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