最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
彼の言葉にハッとさせられる。ロンドンと日本では九時間の時差があり、ロンドンが午後三時である現在、日本ではすでに午前〇時を回っている。

「すみません、お願いします」

「次からは恋人とともに旅行することをお勧めする。君ひとりでは危なっかしい」

鋭い指摘に私はうっと唸った。

たしかに、ひとりでイギリス旅行は心許なかったのだが――。

「……でも、この旅行は私のわがままなので、彼を付き合わせるのは気が引けて」

遺影をぎゅっと抱きしめて答える。生前、母と約束したロンドン旅行。親子水入らずで来ようと決めていた。

「両親は以前ここで暮らしていたそうなんです。私が生まれる前、父は仕事の関係でロンドンに赴任していたらしくて――」

私がたどたどしく話し始めたのを、彼は黙って聞いてくれる。

「母の妊娠とともにふたりは日本に戻ってきたそうです。ですが、私が産まれてすぐ父は病で亡くなって、以降、母が女手ひとつで私を育ててくれました」

正直、父のことはよく知らない。悲しもうにも記憶がないので、ただ空虚な気持ちになるだけだ。 

だからこそ私と母の絆は強固だった。

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