最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
結局、イギリス料理がまずいというのは大昔の話だと、身をもって証明することができた。

ロブスターのグリルも、キャビアが添えられた生ガキも、野鳥のアングレーズも、子羊のローストも、出てくるものみなすべておいしくて、目の前の料理がどんどん減っていく。

だが母の前にある料理だけは減らなくて、うれしいはずなのに寂しくなって、じんわりと涙が滲んだ。

ワインをごくりと飲み込んで涙をこらえる。すると、正面からクスリと笑う優しい声が響いてきた。

「笑っていろ。陽芽の『陽』は太陽の『陽』だろ」

穏やかに笑いかけられ、ああそうかと納得する。名前に込められた願い――きっと両親は私に笑っていてほしかったのだろう。

「はい……!」

もしかしたら母も、私くらいの年の頃に、この店でこの料理を食べていただろうか。

正面の席に座っていたのはきっと父だ。結婚したばかりで新婚気分を味わっていたかもしれない。

志遠さんが頼んでくれた多すぎるディナーを、母の分も味わうつもりでお腹いっぱい食べる。

彼はちょっとあきれたような、でもうれしそうな顔で「よく食べるな」と笑っていた。


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