最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました

食事を終えて店を出ようとしたとき、背後から「シオン」と声をかけられた。

振り向くとそこに立っていたのは、身なりのいい老夫婦。

男性はダブルのスーツに中折れハットという典型的な紳士の格好。女性の方は品のいいコートを纏い、艶やかに輝くパールのネックレスをつけていた。

店にやってきたばかりで、ちょうどスタッフに座席を案内されているところのようだ。

「ロード・アルフォード……!」

志遠さんの表情が驚きの後、柔らかな笑顔に変わり、まずいパターンだと直感した。彼がこの顔をするときは――以下略。

だが、これまでとあきらかに違うのは、志遠さんの笑顔に余裕がないこと。

知り合いらしきその紳士は笑顔で手を差し出してきた。

志遠さんは手を握り返し、気遣わしげなトーンで談笑している。私の肩をそっと抱き「Hime Kikumiya」と紹介してくれた。

紳士は、今度は私に笑顔で両手を差し出してくる。英語の挨拶にわたわたしている私を見かねて、志遠さんが通訳してくれた。

「……彼はアルフォード伯爵家のアーサー・ウエイン。気軽にアーサーと呼んでくれと言っている。俺が子どもの頃から世話になっている人で、頭が上がらないんだ」

どうやら彼ですら腰が引けるほどの相手らしい。

なにしろ伯爵家だ。今度は本物の貴族が来たと、笑顔を引きつらせて手を握り返した。

< 50 / 272 >

この作品をシェア

pagetop