最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
食事を終えて店を出ようとしたとき、背後から「シオン」と声をかけられた。
振り向くとそこに立っていたのは、身なりのいい老夫婦。
男性はダブルのスーツに中折れハットという典型的な紳士の格好。女性の方は品のいいコートを纏い、艶やかに輝くパールのネックレスをつけていた。
店にやってきたばかりで、ちょうどスタッフに座席を案内されているところのようだ。
「ロード・アルフォード……!」
志遠さんの表情が驚きの後、柔らかな笑顔に変わり、まずいパターンだと直感した。彼がこの顔をするときは――以下略。
だが、これまでとあきらかに違うのは、志遠さんの笑顔に余裕がないこと。
知り合いらしきその紳士は笑顔で手を差し出してきた。
志遠さんは手を握り返し、気遣わしげなトーンで談笑している。私の肩をそっと抱き「Hime Kikumiya」と紹介してくれた。
紳士は、今度は私に笑顔で両手を差し出してくる。英語の挨拶にわたわたしている私を見かねて、志遠さんが通訳してくれた。
「……彼はアルフォード伯爵家のアーサー・ウエイン。気軽にアーサーと呼んでくれと言っている。俺が子どもの頃から世話になっている人で、頭が上がらないんだ」
どうやら彼ですら腰が引けるほどの相手らしい。
なにしろ伯爵家だ。今度は本物の貴族が来たと、笑顔を引きつらせて手を握り返した。