最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
彼は部屋につかつかと足を踏み入れ窓を開け、外を覗き込んで「なるほどな」とつぶやく。

見ろと指示され、私も彼と同様に階下を覗き込んだ。

すぐ下はホテルの中庭で、大きな切り株が見える。最近切られたのだろうか、幹の太さから、かなり立派な木だったことがわかった。

「ここは以前強盗が入った部屋だそうだ。まぁ、あれだけ太い木が立っていたなら、身軽な人間がよじ登って窓に飛び移ることは可能だっただろう。今はその木もないから、セキュリティ的には安心してもらってかまわない」

安心していい、そう言いながらも、彼はなぜか口の端を跳ね上げ、不敵な笑みを浮かべている。

「ではなぜ部屋が安くなっていたのか――まぁ、非科学的な話にはなるんだが、当時殺された人間がいたそうだ」

かちんと私は凍り付く。

なぜこの部屋だけ大特価だったのか――その理由をやっと理解して背筋が寒くなる。まさかいわくつき価格だったとは。

「このホテルのサイトを見ればご丁寧に注意書きが載っていたはずだが。まぁ君のことだ、どうせたいした内容ではないと判断して英訳をせずスルーしたんだろう」

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