最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
今さらそんなことを言われても、もう一泊したあとだ。

そういえば昨晩、真夜中に足音が聞こえてきておかしいとは思ったのだ。

上の階にうるさい人がいるのかな?くらいに思っていたのだけれど、よくよく考えてみれば、真夜中に下の階に響くほどドタバタと歩き回る宿泊客がいるなんておかしな話だ。

まさか上の階ではなく、この部屋で誰かが――。

「どうする。ここに泊まるか、俺と一緒に来――」

「一緒に行かせてください」

そんな話を聞いてしまったら、行くしかないじゃないか。彼はずるい。

「一時間後に迎えに来る」

くるりと踵を返した志遠さんのジャケットを私は掴む。

一時間もひとりでこの部屋にいろと? 冗談じゃない。

「五分で用意します」

志遠さんは振り向いて変な顔をしたが、ひとつため息をついてベッドに腰掛けた。

彼が目をつむってじっと待っている間に、私はせっせと散らばった荷物をトランクに詰め込む。

「お待たせしました!」

志遠さんが私の代わりにフロントで手続きを済ませてくれた。

チップを多めに渡したらしく、フロントのスタッフは妙に笑顔で「Thank you for staying with us!」と笑いかけてくれる。私もカタコトの英語で「サンキューソーマッチ」と答えた。

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