最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
彼――ダリルはプレートをダイニングに運んでくれる。

比較的悪天候の多い十月頭のロンドンだが、この日は雲間から陽が差し込んでいる。

窓の多いダイニングは光をめいっぱい取り込み、明るく気持ちがよかった。

「今、ミルクティーを作ってきます。俺、朝はミルクティー派なんで」

ダリルがいそいそとキッチンに戻っていく。

「あの、私も手伝います!」

慌てて追いかけようとしたが、「ヒメは食べててください!」と声を上げられ、ぴたりと足を止めた。

ごく普通にヒメと呼ばれた……。きっと志遠さんが私のことを陽芽と呼んでいたからだろう。

まぁ、イギリスの人は名字よりも名前で呼ぶ方が主流のようだから、こういうものだと思った方がいい。ここには『ヒメ』を『姫』とからかう人もいない。

なんにせよ、せっかく朝食を作ってくれたわけだし、温かいうちに食べさせてもらおう。

私は「じゃあ、いただきます!」と声をかけてダイニングへと戻る。

ダリルはキッチンで背中を向けながら「Tuck in!(めしあがれ)」と元気よく答えた。

木製のアンティークチェアに腰掛け、私は食事をいただく。塩味の効いたカリカリベーコンに食欲をそそられる。

< 65 / 272 >

この作品をシェア

pagetop