最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
殴られるくらいならまだしも、もっとひどいことをされる可能性もある。自分が女であることを思い出しブルッと震え上がった。

ここは私が生まれ育った平和の国、日本ではないのだ。

だが、犯人が目の前にいるのになにもできないだなんて、耐えられない。

「あの……助けてください……バッグを、取り返したくて――」

「……悪いがそれはできない。彼らが三人だけとも限らない。警察に任せよう」

その男性の言葉は残酷で、でも至極まっとうで、それ以上言い返すことができなかった。

あきらめるしかないんだ。現実を突きつけられた私は、せめて遠ざかっていく男たちに向かって声を張り上げる。

「待って! お金はあげるから――」

日本語が通じるわけはないけれど、残念ながら咄嗟に英訳できるほどの語学力もなかった。

「せめて遺影だけでも返して!」

悔し紛れに思いっきり叫んだ私は、力が抜けてその場にしゃがみ込む。

英語力皆無、海外旅行経験ゼロの私がロンドンでひとり旅だなんて、やはり無理だったのだ。

亡き母にロンドンの景色を見せたかったのに、全財産を奪われたあげく、遺影まで持っていかれてしまった。

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