最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
大嫌いな飛行機にもがんばって乗ったというのに。情けない……。

がっくりとうなだれていると、上から「おい」という硬質な声が降ってきた。

「遺影というのは?」

見れば黒髪の男性がこちらを無表情のまま見下ろしている。

「……バッグに母の遺影を入れていたんです。生前、ロンドンに行きたいってずっと言っていたから、連れてきてあげようと思って」

男性はしばらく考えたあと「そうか」とうなずいて、私の腕を取った。

「よし。追いかけよう」

「……へ?」

「奴らに交渉してみよう。二万ポンドとバッグを交換してほしいと言えば応じてくれるかもしれない」

「ええ!?」

二万ポンドといえば、日本円に換算すると……ええと、ざっと三百万円くらい?

正直、私のバッグにそこまでの価値があるとは思えないし、そもそも、そのお金はどうやって用意すればいいのか。

だいたい、追いかけたら危ないって、さっき自分で言ってたじゃない!

「待ってください! 警察に任せるって――」

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