最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
お金……地位、名誉、宝石……とくにほしいとも思わない。

現状無一文ではあるけれど、志遠さんが肩代わりしてくれている。これから必要になるものは働いてどうにかするだろうし――

「ほしいものなんてありませんけど」

「もうちょっと考えてから答えろ」

却下とでもいうように、彼はティーストレーナーを使って茶葉をこしマグカップに注ぐ。

彼は私がプレゼントした花柄のマグで、私はもともとこの家にあったシンプルな白いマグを使う。

「揃いで買ってくればよかったのに」

そう彼に言われて、私は「たしかに」と声をあげた。そうすればお揃いのマグで紅茶が飲めたのに。

「あ、ほしいもの、見つかりましたね」

「……そういうことじゃない」

志遠さんが嘆かわしげな顔でダイニングテーブルに紅茶を運んだ。

「ジャムを添えてロシアンティーにでもするか」

「イギリスなのに!?」

談笑を交わしながら、彼の家に来て二日目の夜は更けていく。

こんな経験ができるのだから、私はこれ以上ほしがるものなどないくらい、幸せものだ。




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