迷彩服の恋人
「朝香さん、花村さん。今は土岐を追わないであげて下さい。今日…彼は〝付き合わされて来た身〟です。1人にしてやって。土岐は本来"合コンなんかの場"も苦手なので。」

土岐さんを追っていこうとした2人を、志貴さんは…優しいけど、少し貫禄のある声で制した。

「隼人、ちょっと男性陣や都ちゃんと話しててくれない?…〝あの子たち〟𠮟らないと失礼がすぎるわ。3人ともごめんね。」

「えっ、結花さん!いいですよ、気にしてないので。」

「あのねぇ。 “麻生陸士長”、そこは気にしてよ!あなたは女性と関わりたいだろうし…〝あの子たち〟もそうだから嫌だとか感じなかったかもしれないけど、世の中の大多数の人間は不快に思うの!交際前の異性から年収を聞かれるなんて…!」

「はっ、はい!」

あえての"階級呼び"。
相変わらず"主任スイッチ"入った結花先輩も貫禄あるなぁ…。

麻生さん、小っちゃくなっちゃった…。

「麻生。お前、いいかげん結花の怒るツボ…分かれよ。」

こちら側が皆さんの年収を聞いてしまったことに関しては、結論を言えば…麻生さん、中崎さん、古川さんの中でも意見が分かれていた。

「…望月さん、どうかした?泣きそうな顔してるよ。…あっ、もしかして。土岐のこと、気になる?…心配してくれてる、かな?」

「えっ、泣きそうな顔…。し、失礼しました。…あのっ!志貴さん、私が今出ていったら土岐さんは迷惑でしょうか?…上手く言えないですけど、土岐さんが出ていく時の後ろ姿…疲れているように見えたので心配です。」

「望月さん……。」

男性陣全員が私の発言に驚き、少し口を開いて固まっている。

えっ。普通に…土岐さんの様子見てたら分かりませんか。
私には、彼が無理して笑ってるように見えましたよ?

「…ありがとう。あなたは土岐の本質を見抜いてくれていたんですね…。アイツはね、疲れすぎると1人になりたがる。だけど、何も言わずにアイツの隣に行って煙草吸い始めると話し出すんだ。悩み事だったり、考えてることを。……土岐の後ろ姿見て、アイツが疲れてるって感じ取ってくれたあなたなら、きっと今行っても嫌がらないと思いますよ。」

結花先輩のお叱りの声がそれなりの音量だから、幸いにも〝女性3人〟にはこの会話は聞こえていない。

「土岐さんに嫌だって言われたら…戻ってきます。行ってきます。」

「うん、ありがとう。土岐のこと頼みます。こっちは何とでもしておくから任せて。行ってらっしゃい。」
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