迷彩服の恋人
第三任務*親しくなりたい…。
「土岐さん、お疲れ様です。」

ドアを押し開け…周りに視線を走らせると、土岐さんがお店の外壁に背中を預けて煙草を吸っていた。

「…え?…あっ、望月さん。お疲れ様です。」

私の姿を見るなり、彼は持っていた煙草の火を消そうとする。

「あっ、いいです。煙草、そのままで。父も兄も吸うので……。」

「ありがとうございます。ではこの1本だけ、甘えさせてもらいますね。……そういえば、今日は眼鏡なんですね。」

「…えっ、はい。コンタクトが入らなかったんです。変ですか?……あのっ!先ほどは、朝香先輩と〝若手の女子2人〟がすみませんでした。疲れましたよね…。」

「そうだったんですね。いえ、僕はどちらもお似合いだと思いますよ。眼鏡されてると、より知的に見えますね。……いや、疲れたというほどでは――。」


やっぱり"答え"を濁してる――。優しいんですね――。

「私は疲れました。だから少しだけ…土岐さんと、ここで過ごしてて良いですか?……あなたといると、何か落ち着くんですよ。それに、今日やっとあなたのお名前も分かって話したいなと思ってるのに…あの人達、ずっとマシンガントークしてるんですもん。」

彼が笑った息遣いが聞こえた。

「フッ…。あなたは正直な人だ。もちろん、望月さんなら構いません。ただ、僕といても楽しさは保証できませんよ?…"落ち着く"……。そんなこと初めて言われました。何だか照れますね。じゃあ…。僕も望月さんを見習って、ちょっと本音を吐こうかな…。桧原さんと望月さん以外の方は僕の苦手なタイプなので…正直疲れました。」

そこからは、本当にいろんな話をした。

私が食品メーカーの営業勤務で、アニメや声優…バンド音楽が好きでよく遠征すること――。
昔から過干渉な母が、結婚適齢期に入ったら余計に口うるさくなって…今まで以上に近寄り難くなっていること――。

一方の土岐さんは、自動車整備士を目指して高校卒業後…専門学校へ進学。その後は自動車メーカーへ就職するも、上司からのパワハラに悩まされて1年で退職。
そして21歳の時に、自動車整備士2級の資格を取るため資金が必要になったことを、小さい頃から慕っている叔父(おじ)様に相談したという。叔父様が元自衛官だったことから同じ道を勧められ、入隊したそうだ。
しかし、人間関係を築くことに苦手意識がある彼は…2年でひとまずは退官したらしい。その後、大型免許など…取得した資格を武器に、運送会社で3年勤務。
けれど、不規則な生活で体を壊してしまい…依願退職させられ、今に至るのだと話してくれた。
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