迷彩服の恋人
"棚から牡丹餅"って、こんな時に使う言葉なのかもしれない。

お仕事中の土岐さんなんて…絶対にカッコ良いから見たい。

「“森下技曹”、突然やめて下さいよ!彼女は桧原さんとの計画もあるんですよ!?…って、望月さん?」

「土岐さんっ!土岐さんの整備の技術見せて下さいっ!」

「…っ!さっき『技術職の人間を尊敬してる』なんて話を聞いたばかりですし、僕はあなたの〝はにかんで笑ってる表情〟に弱いんです…。整備中はお相手できませんし、見てて面白くないかもしれません。…良いですか?」

「はい。」

結花先輩と森下さんがニコニコしながら私達を見ていて…走って逃げたい気分になった。

そして残り15分ほど事務所で作業した後、私達は車両整備を行う場所に移動した。



「じゃあ、ここで見学してて下さい。」

「はい。」

私と先輩にパイプ椅子を用意した土岐さんは、そう言い残して皆さんが集まっているグラウンドの中央へ向かおうと、歩き出す――。

「あ…。」

うん? どうしたんだろう…。
彼は何かを思い出したのか、こっちに戻ってくる。

「望月さん。僕の戦闘服の上着、預かっておいてくれませんか?作業中…暑くて脱ぐことが多いので…。」

土岐さんっ!!それはフリですか…"着てもいい"っていうフリですか!?

だけど、すぐに回れ右をして戦車の方に歩いていく土岐さん。
彼はどんな気持ちで、これを私に渡したんだろう。

「あらあら。さては土岐くん、隼人か誰かにいろいろアドバイスもらい始めたかしら?」

「アドバイス?」

「そう、都ちゃんを口説くアドバイス。…都ちゃんが、制服好きとかコスプレ好きとか言ったから"着たいのかな…。"って彼なりに考えたんじゃないかな…。隼人からの又聞きだけど…土岐くん、女性関係恵まれなかったみたいだし。」

「えっ、私を口説く!?それは違うんじゃ…?…あっ。それ、メッセージでご本人から聞きました。」

「えっ、本人から聞いたの?…そっか。なら、2人はゆっくり進んでるわね、安心したわ。都ちゃんも前より他人に本音言えてるし…。それで?どうする?羽織ってみちゃう?」

「きっ、着れませんよ!…整備終わって戻ってきた時に聞いて、それから…。」

「着たいのは着たいのね…。分かった。じゃあ聞いてOK出たら、2ショット撮ってあげるわ。」

「えぇっ!?ハードル高いですって。…それより、良かったんですか?私と一緒にここにいて。」

「あっ、話すり替えたわねー!……隼人の仕事ぶり見るなら、演習終わりの方が良いわ。会場設営・撤収係だから。だから良いのよ。ちなみに、ランチは4人で戦闘糧食よ。」

「あはは…はい。」
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