迷彩服の恋人
そんなメッセージが彼から送られてきて、家族や結花先輩と食事をしている最中にもかかわらず泣きそうになった。
兄一家が里帰りしているのは分かるけど、結花先輩が昨日の夜…家に「泊めて下さい。」とやってきた理由は分からない。

今日は…台風が1番接近するという報道がされ続けている日だ。

[お昼のニュースです。非常に勢力の強い台風5号は、強い勢力を保ったまま…今夜、静岡県に上陸する見込みです。暴風や高波、河川の氾濫、土砂災害などに十分注意して下さい。]

「都、どうした?」

「姉ちゃん?」

やばっ!ほんとにボーッとしてた。

「あっ。お父さん、お兄ちゃん、朝也(ともや)…ううん、何でもない。」

「都、さっさと食べて片付け手伝いなさい。」

「はーい。」

お母さん、ほんと空気読めないよね。
私を追い出したがったり、手伝わせたり…どうしたいんだろう。

母の近くにいる時間をできるだけ短くしたくて、私は洗い物を手早く終わらせた。



「都ちゃん、大丈夫?お昼ご飯の時、土岐くんから連絡でもあった?」

「メッセージに【出動命令出そうだ】とか【感情は抑え込まないで】って書かれてて泣きそうになりました。」

「さすが土岐くんね。私が彼に言ったこともあるけど…その前から都ちゃんの性格、何となく気づいてたしね。」

「言ったって…何をですか?」

「『都ちゃんは、芯が強くて決断したら行動できる子だけど…寂しがり屋な一面もあるから、その気があるなら本気で大事にしてあげて!』って。合コンの時、私が土岐くんに耳打ちしてたの…覚えてない?」

「あっ!」

「思い当たる節あるでしょ?…でね。土岐くんに頼まれたの。『望月さん、お母様と疎遠みたいですし…桧原さんさえ良ければ、台風が来る前から一緒にいてあげてほしいんです。』って。」

「えっ、土岐さんが!?」

だから来てくれたんだ…先輩。

「結花先輩…。私、土岐さんに次会えた時…気持ち伝えようと思います。」

「やっとその気になったわね。」

「姉ちゃんに〝男〟!?」

「朝也!?ちょ、あんた声が大きい…!」

部屋の前で、朝也が聞き耳を立てていたらしい。
それなりの音量で叫んだものだから、みんなが2階へ飛んできた。

「都。お前、彼氏できたのか?」

「まだ彼氏じゃない。お父さん、お兄ちゃん…お願い、今はそれ以上聞かないで…。会いたくなる。」

深掘りしようとする家族を宥めて、場を収めた。





[速報です。静岡県西部で大規模な土石流が発生。被害の詳しい情報はまだ入ってきておりません。]

そんな速報が流れたのは、夕方のニュースだった。
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