アゲハ蝶は、クローバーを一人占めしたい
「恵実は、言っていた。
どんなに残酷で苦しくても、毅蝶さんの傍にいられないことの方が、残酷で苦しい……ってな。
四門は、そんな恵実の本心を見ていない。
だから決めるのは、四葉だ」

毅蝶の鋭く切ない視線と思いに、四門の表情も切なく歪んだ。

「………」
「お父様…?」
「帰るぞ!」

四葉の手を引き、四門は屋敷を出ていく。

「あ、言っとく!
揚羽は、大学を辞めて組に入ることなる」

「え…!!!?」
思わず振り返り立ち止まる、四葉。


「四葉」
「揚羽く…」


「ごめんな。僕はもう……四葉の傍にいられない」
揚羽は取り乱すこともなく、いつもの淡々とした口調で言った。

(嫌!!そんなの……やだ!!)


「四葉、行くよ!」
四門が強引に引っ張る。

今すぐに、四門の手を振り払い揚羽の所へ飛び込みたい。

でも………

都筑の屋敷に群がるようにいる、強面の都筑組の組員。
揚羽自身の恐ろしさ。


これ等を全て受け入れるのは、今の四葉には無理だった━━━━


想像もしていなかった現実。
こんなに早く、揚羽との別れが来るなんて………



屋敷に帰り着き、四葉は人形のように自室のソファに座った。

頭に浮かぶのは、揚羽のことばかり。

揚羽の優しい顔と声。
慈しむように与えてくれる、愛情。
大学で会うと、まるで何年も会えなかったように苦しくなるくらい抱き締め、震える声で“会いたかった”と呟く。
別れる時“大丈夫。また明日も会えるよ”と微笑み頭を撫でてくれる。
毎日の電話もそうだ。
いつも他愛もない話だが、揚羽の電話がないと寝れないくらい、四葉の癒しだ。

四葉はスマホを取り出す。
揚羽に電話しようとして、手が止まる。

電話したところで、どうすると言うのだろう。

“揚羽くんを受け入れるよ”
そう言えば、揚羽はきっと喜んでここまで自分を奪いに来てくれるだろう。

でもまだ、どうしても受け入れられない。
“好き”という感情で飛び込めない何かがあった。

揚羽の傍で、人が傷ついていくのを見て生きていくなんて無理だ。
恐ろしい揚羽を支えていけるのかも、不安で堪らない。

スマホを握りしめ、四葉は静かに涙を流していると、突然スマホが震えた。

ビクッとして、画面を見る。
【揚羽くん】

四葉は考えることもなく、通話をタップした。

『四葉』
ただ、名前を呼ばれただけで愛しくて堪らない。

「揚羽…く…」
『さっきはごめんな。
あの場では、あんな風に言うしかなくて……』
「うん…」

『ちゃんと、四葉の口から聞きたいんだ。
四葉は僕を、受け入れてくれる?』
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