狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
この家の駒として厳しく育てられてきた美桜は、幼稚舎から小中高までエスカレーター式の名門で知られる女子校に通っていた。それも車での送迎付きだ。
友人もいたが、お稽古事が多く遊んでいるような暇なんてなかったし、外泊も許されていなかったので、次第と友人とも疎遠になっていった。
もちろん恋愛経験なんて一切ない。
それでも小説やドラマのような恋愛や出逢いに少なからず憧れを抱いていた。
たとえお見合いが出逢いである政略結婚だったとしても、もしかしたら恋愛感情を抱くかもしれない、と。
それが一瞬で崩れ去ったのだ。
落胆を通り越して絶望し暗い顔をした美桜の心情など気にもとめない素振りの、薫の甘ったるい声音が再び耳に届いた。
「ほら、美桜さん。この方よ。とっても優しそうで、誠実そうな素敵な方でしょう?」
その声に知らず俯けてしまっていた顔をゆっくりと上げてみる。
綺麗に磨き上げられた座卓に開いて置かれた見合い写真には、かねてから見目麗しい家元として評判でとても齢五十には見えない若々しさのある父とは真逆の、どうみても五十過ぎのギトギトと脂ぎった中年男性の姿が映っていた。
「ーーッ!?」
目にした瞬間、余りのショックに目の前が暗転し、軽い目眩を覚えた美桜は言葉を失ってしまう。