狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
そんな美桜のことを困ったように見下ろしてきて苦笑を零してから、美桜の艶やかな長い黒髪をサラッと撫でつつ。
「さっきのこと怒ってるんじゃないのか? 政略結婚とはいえ夫婦になるんだ。お前のことは大事にしたいと思ってる。だから、風呂場で最後まではしたくなかったんだ」
「そ、そうですか」
浴室でのことを詫びてきた尊の言葉に、美桜はなんでもないように素っ気なく返しはしたが、内心では驚くと同時に嬉しくもあった。
「まさかお前が風呂に一緒に入るなんて了承するとは思わなかったしな」
ーーてことは、大事にしたいと言ってくれたように、さっきも私のことを大事にしようとしてくれてたんだ。
そう思うと、ずっしり沈みかけていた気持ちまでが上向いてきて、無性に嬉しくなってくる。
とはいえ、樹里のことがどうしても気にかかる。
けれど今ここで、『行かないで欲しい』なんて言えるような権限などあるはずもない。
もしもそんなことを口にして、好きだという気持ちが露見して、煩わしいなんて思われたくもない。
いつまでもわだかまりが残るのも嫌なので、尊に詫びることでさっきのことは終わらせることにした。
「あの、さっきのことは、私の勘違いだってわかりましたから。もういいです」
美桜の言葉を耳にした尊はようやくホッとしたように柔らかな笑みを浮かべてから。
「そうか、ならいいが。帰りは遅くなる。先に休んでくれて構わない。何かあれば、ヤスを呼ぶといい。じゃあな」
そう言い置いて、昨夜もそうしてくれたように美桜の額に軽くチュッと口づけを落とすと、今度こそ部屋から出て行ってしまう。
ひとり取り残された美桜は、樹里とのことが気になりながらも、疲れていたせいか、いつしかうつらうつら浅い眠りへと誘われていった。