狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
とはいえ、美桜の前ではヒサもやんわりと濁していたし、極道組織なのだから、多少は口に出し難いこともあるのだろう。
そういう意味でも、この世界に引き入れてしまった尊に対して、櫂自身思うところがあるに違いない。
それらを踏まえると、尊は元々はこういう極道など無縁の世界に身を置いていたのだろうことが窺い知れる。
尊の醸し出す気品から考えても、おそらく美桜と同じような環境に身を置いていたのではないだろうか。
そう思いはしても、ただの政略結婚の相手でしかない美桜には、そのことを尊から聞き出すことなどできない。
仮に聞いたところで、心を許してもらえていない自分に、教えてなどくれないだろう。
それにきっと、触れては欲しくないはずだ。
両親を亡くして天涯孤独になってしまっているのだ。過去のことなど、思い出したくないのかもしれない。
「ん? ぼうっとしてどうした? もう酔ったのか?」
いつしか思考に耽ってしまい尊の端正な顔をボーッと見つめていると、不意に声をかけられ意識を向けてみる。
すると声音同様に穏やかな表情で美桜の様子を窺っている尊がふっと目元を緩める。
「はい。そうみたいです」
美桜は心の機微を気取られないようにさりげなく、尊の言葉に乗じて、頬に手を当てはにかんで見せた。