狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜

すると尊が緩めた目元をいっそう優しげに緩ませた。そうして傍に控えていたスタッフになにやら目配せをする。

　美桜はどうしたのだろうかと微かに首を傾げるしかなかった。

　それが何だったかを美桜が知ったのは数分後のことだ。

可愛らしく盛り付けられたケーキの載ったプレートとシャンパンの注がれたグラスをテーブルに運んでくれたスタッフによって渡された抱えきれないほどの淡いピンクと深紅の二色の色味が綺麗な薔薇の花束を受け取った直後。

「酔っ払ってしまう前に、これを受け取ってほしい」

　いきなり大きな薔薇の花束なんて渡されたものだから、美桜は何事だろうかと目を丸くする。

驚きのあまり言葉を失っている美桜の眼前に、尊がすっと差し出してきたベルベットの小さな箱を視認した刹那、美桜の視線は釘付けになる。

　どこからどう見てもドラマなどでお馴染みの、プロポーズの場面に欠かせないジュエリーケースだったからだ。

　それは見ればわかるのだが。ただの政略結婚だというのに、まさかこんなことまでしてもらえるとは思ってもみなかったことだった。

「……あ、あの、ほ、本当に私なんかでいいんですか？」

　美桜は思わずそう訊き返してしまう。

　そんな美桜の反応に尊は苦い笑みを浮かべ。

「私なんかでって、それはこっちの台詞なんだがなぁ」

呟きを零してから、美桜の瞳をまっすぐに見据えキッパリと言い放つ。

「これだけははっきり言っておく。俺は努力もせずに泣き言ばかりいう奴が嫌いだ。でも、お前は違うだろう？　俺はいくらかりそめだとしても、嫌いな奴と結婚なんてしようと思わない。だからお前に受け取ってもらわないと困る」