狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
確かに、先週のあのプロポーズの夜、嬉しかったのもあり少々シャンパンを飲み過ぎてしまった美桜は、スイートルームに場所を移し尊がシャワーを浴びている間に、寝入ってしまうという大失態を犯してしまったのは紛れもない事実だ。
だがくだなど巻いた覚えは断じてない。
頬を染めながらもムッとした美桜は抗議の声を放つ。
「確かに、酔って寝ちゃいましたけど、くだなんか巻いてませんッ!」
尊は美桜の抗議を耳にするや、心底可笑しそうにくっくと笑みを噛み殺すだけで、詫びる素振りはない。
ますます憤慨した美桜がいじけて、
「もういいです」
それだけ言って尊に背中を向けたところで、ようやく機嫌でもとろうと思ったのだろうか。
正面のアンティーク調のテーブルにコトリとグラスを置いた音が静かな部屋に溶け込むより先に、背中からスッポリと包み込むようにして抱きしめてきた。
突然の抱擁に心の準備など追いつくはずもなく、美桜がビクンと大袈裟な反応を返すと同時。尊は尚もグッと耳元に顔を寄せ、甘い声で囁きかけてくる。
「せっかくの初夜なんだ。そう怒るな。可愛い顔が台無しだぞ。美桜」
ーー先週だって、慣れないお酒を飲むのを控えようとしていたのに、勧めてきたのは尊さんだったのに、くだを巻いただなんてあんまりだ。
そう思い、そっぽを向いたまま無視してしまおうと思っていたのに……。
ーー不意を突くようにして、初めて名前を呼び捨てにするなんてズルイ!
憤っているはずなのに、尊に初めて呼ばれた自身の名前が特別な響きを奏でたように聞こえてしまう。
まるでそれは魔法の言葉のように、美桜の心の奥底にジーンと甘やかに染み渡ってゆく。