狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
たったそれだけのことで泣きたいくらいに嬉しいだなんて、悔しくてどうしようもない。
女性の扱いなど慣れているのだろう尊にとって、二十歳になったばかりのオコチャマを手懐けることなど朝飯前なのだろう。
そう思うと、胸の中でますます悔しさが膨張していく。
尊に甘酸っぱい感情を抱いている美桜には、尊には何一つ敵わないだろう。
だからせめてもの報いのつもりだった。
「言っときますけど、そんなもので誤魔化されませんから。それに、ただの政略結婚なんですから、そこまでする必要なんてありませんよね? 今まで通りでお願いします」
背後の尊に振り向きざまに、キッと鋭い視線で射抜くように見据えて強い口調で言い放つ。
これからずっと呼び捨てになんかされたら、ますます好きになってしまうだろう。
ーーそんなの耐えられない。辛くなるだけだ。
そんな想いでいた美桜の願いも虚しく、尊からの言葉は実にあっけらかんとしたものだった。
「政略結婚とは言え夫婦になったんだ。名前の呼び捨てくらい普通だろ」