狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜

 頼りない記憶ではあるが、薫の厳しい躾や叱責により、幼い美桜が泣いていたりすると、優しく慰めてくれたり、家に呼んだ友人らと一緒に遊んでくれたりもした。

 元々、面倒見のいいところがあったのだろう。

 それに加えて、持ち前の明るさと気さくさに、父譲りの見目に優れた容姿も相まって、昔から男女ともに人気があったようだ。

 そんな性格だった愼は、その頃の美桜にとって、優しく頼りがいのある兄だった。

 けれどもそれは美桜が小学生一、二年までの話だ。

 そういえば、兄がまだ高校生だった頃だろうか。家によく遊びに来ていた同級生の友人がいたっけ。

 愼よりも身長が高く、普段はムスッと不機嫌そうな顔をしていたけれど、ごくたまにクシャッと相好を崩す様は、年上ながらに、大人しい性格ではしゃいだりしない美桜よりも子供らしかったし、なによりキラキラと輝いて見えた。

 その笑顔から目が離せなかった記憶がある。

 きっと滅多に笑わなかったから、珍しかったのだろう。

 といっても、小さかった頃のことだったし、記憶も朧気で、名前もどんな顔だったかも思い出せないのだけれど。

 今とは別人かと思うくらい愼も優しかったし、その頃のことがひどく懐かしく思える。

 ーーあの頃に戻れたらいいのに……。

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