狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
そう言われても、安心などできない。さっきのあの怒りようは尋常じゃなかった気がする。
極道は、面子をなによりも重んじると聞いたことがある。
おそらくかりそめとはいえ、妻である美桜を傷つけられたことが許せなかったのだろう。
さすがは泣く子も黙る極心会の若頭。孤高の若頭と呼ばれているだけあり、物凄い殺気だった。
やはり美桜の前では気を遣って、そういう姿を極力見せないようにしてくれているのだろう。
だったらハッキリ確かめておかなければならない。でないと取り返しのつかないことになっては大変だ。
尊に真意を確かめるべく、美桜は恐る恐る尋ねてみた。
「本当ですか?」
「ああ、本当だ。怖がらせて悪かったな」
「いえ、吃驚しただけですから」
「そうか」
心配そうに尊の様子を窺う美桜に、尊はこれまで同様、穏やかな表情で微笑み返してくれる。
ーーよ、よかったぁ。
ようやくホッとした美桜が胸を撫で下ろしていたときのことだ。
「……あの女、覚えてろよ」
尊が無意識に吐き捨てたらしい忌々しげな台詞が耳に届き、美桜はハッとし尊に向き直った。
「尊さんが自分のことのように怒ってくれるのは、とっても有り難いことなんですが。私のせいで尊さんの手が穢れるのは嫌です。だからお願いします。なにもしないでください」
尊の暴走をなんとか阻止すべく美桜は必死に言い募る。
「……お前がそこまで言うなら、わかった。俺はなにもしない」
尊はまだなにか言いたげだったが、美桜の必死な想いが通じたのだろうか。
思いの外あっさりと約束してくれた尊に胸に抱き寄せられたことで一件落着。
そのときの尊の、この世の闇を集結したような、黒々と煌めく漆黒の瞳に、メラメラと燃え立つ炎が怪しく揺らめいていたことなど、美桜には知る由もない。