狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜

 その後の撮影も順調に進み、たった今撮影を終えることができた。時刻は十七時十九分。美桜はスタッフへの挨拶を終えて控え室へと向かおうとしていた。

 するとそこへ、軽快な男の声が美桜の背中を追いかけてくる。

「あー、美桜さん。どうですこれから夕食でも」

 美桜が振り返った先には、現場の責任者であるディレクターの牧村がいて、この男がどうも苦手だった美桜の身体は途端に強張ってしまう。

 仕事の都合上、美桜の結婚相手が尊だということはもちろん結婚していることも伏せている。

 そのせいか暇さえあれば、あの手この手で美桜のことを食事に誘い出そうと声をかけてくるのだ。

 それだけならまだしも、美桜のことを見る目に妙な熱がこもっていて、それがどうにも苦手だった。

 それでも失礼があってはならないと、なんとか必死に笑顔を取り繕う。

当然、この仕事を与えてくれた夫である尊に迷惑がかかるようなことがあってはならないーーという想いだってある。

 だがそれだけではない。

 幼い頃よりどんなに寂しくとも辛くとも、大好きな花々に助けられてきた。

 大好きな花のために、自分の特技を活せるこの仕事に美桜は誇りを持っているし、これ以上にないほどのやり甲斐と生き甲斐を見いだしていたからだ。
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