狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
「美桜さん、嫌な思いをさせてしまって、申し訳ない」
「いえ、とんでもありません」
阿久津に頭を下げて謝罪されてしまい、美桜は慌てて返答し、自分のふがいなさを詫びようと思ったのだが。
それよりも先に、阿久津から思いがけない言葉を返されてしまう。
「けどこれからはこの皆藤《かいとう 》樹里さんが同行して、マネジメント全般を担ってくれることになるから、安心してほしい。男だと気づかないところもあるからね」
「……そ、そうですか。それは、ありがとうございます」
寝耳に水発言ではあったが、自分のことを気遣ってくれてのことだったために、美桜は頭を下げて感謝の気持ちを伝え、傍に控えているショートカットのよく似合うスラリとした綺麗な女性へと視線を巡らせる。
「はじめまして、皆藤樹里です。どうぞよろしくお願いしますね」
「は、はじめまして。こちらこそ、よろしくお願いいたします」
「それに、実は、樹里さんは鬼頭(渡世名・本名は皆藤)櫂さんの娘さんでね。尊にとっても姉弟のような存在でもあるから、遠慮はいらないしね」
「……」
「あら、少しは遠慮してほしいものだわ」
「ははッ、これでも充分遠慮してるんですけどねぇ」
「あら、それは知らなかったわ」
阿久津から紹介された女性と挨拶を交わした美桜が、『樹里』という名前に引っかかりを覚えていたタイミングで追加された、これまた予想外な言葉に胸の内がザワザワと騒いでしょうがなかった。