狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜

***

「……おい、美桜。どうした? 口に合わなかったか?」

 帰宅しいつものように尊にあたたかく出迎えてもらった美桜は、ハウスキーパーが作ってくれたキノコと鰆の和風ムニエルとサラダに、尊が作ってくれたという根菜と夏野菜をたっぷり使った鶏ガラ仕立ての美味しいスープを味わっていた。

 けれども樹里のことが気にかかってしまい、美桜は上の空で手にしたスプーンで具材を掻き混ぜてばかりいる。

 喉の奥に小骨がつっかえたときのような不快な感覚を拭うことができずにいたのだ。

 そんな美桜の元に、正面のダイニングテーブルで食事をとっていた尊に不意に呼びかけられ、美桜はビクッと過剰に反応してしまったがなんとか返答する。

「……いえ。とんでもない。とっても美味しいです」

「そうか? まだまだたくさんあるしいっぱい食べろよ」

 尊は一瞬訝しげな表情を覗かせたが、美桜からの料理の感想を耳にし、ふっと嬉しそうに相好を崩した。

 美桜は尊に不審がられずにすんだことに、人知れず安堵の息を漏らし、さり気なく話を膨らます。

「はい。それにしても、尊さんがこんなにも料理が得意だとは思いませんでした」

「この世界は男社会だからな。下っ端の頃には部屋住みで、行儀見習いに料理や洗濯といった家事までしなきゃならない。だから嫌でも身に着く」

「へぇ、そうなんですか」

「ああ。見栄えは地味だが、味だってなかなかのもんだろう?」

「とんでもない。見た目からすでに美味しそうだし。味だってお店並ですよ」

「ははっ、だったら時間があればまた作ってやる」

「わぁ! 楽しみですっ!」

 結婚する以前もそうだったが、夫婦になってからも、尊は自身が身を置く極道の世界のことを話すことなど滅多にない。

 政略結婚の説明を受けたとき以来かもしれない。

 そんなこともあり、尊から話してもらえたことが嬉しくてどうしようもない。

 元気な返事を返した美桜は、弾んだ明るい声に負けないくらいの、満開の笑顔を綻ばせた。

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