狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
食事の後には、いつものように尊と一緒に食器の片付けをして、リビングダイニングのソファに移動してからは、桜の花弁があしらわれた夫婦色違いのマグカップに尊が淹れてくれたルイボスティーを味わいつつ、晴れやかな気分でのんびり寛いでいた。
もちろん隣には、コーヒーを注いだ揃いのカップを悠然と傾けている尊の姿がある。
日頃の疲れのせいか、心地よい眠気に誘われた美桜は、いつしか尊の身体にそうっと寄りかかり、尊の体温と匂いと幸福感とにほわりと包まれうっとり酔いしれていた。
そんな美桜の気持ちに水を差すようにして、尊自ら樹里の話題を振られることとなり、舞い上がっていた美桜の心はたちまち急降下。
「それはそうと。今日、撮影現場に匡と樹里さんが行っただろう?」
「……は、はい」
ずっしりと重い荷物でも背負わされた心地だ。
そんな美桜に対して、尊はその経緯について説明をはじめた。
なんでも樹里は、この春、大手芸能事務所を退社し独立したばかりなのだとか。
立ち上げた事務所も軌道に乗り、少し余裕がでてきたというのを聞きつけ、尊が打診したのだという。
その話からも、尊の穏やかな表情からも、会長である櫂に対するもの同様、樹里への信頼度が窺える。
尊と出逢ってまだ二月足らずの美桜の知らない尊のことをよく知る樹里との絆をまざまざと見せつけられたような気がしてくる。
「男には言い難いこともあるだろうから、不安なことや困ったことがあればなんでも相談するといい。もちろんこれまで通りヤスたちにも着いててもらうがな」
「……はい。ありがとうございます」
けれど尊の口振りから、美桜のことを気遣ってのことだったと知り、モヤモヤとしていた心が少しずつ澄み渡っていく。