狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
樹里とのことがずっと気になって仕方なかったが、以前、櫂に話していたように、尊にとって樹里は姉同然なのかもしれない。
もし仮に、尊が樹里のことを女性として慕っていたのなら、いくら政略結婚だとはいえ美桜と夫婦になんてならないだろう。
それに、この政略結婚は、美桜とビジネスパートナーになるためのものであり、美桜を天澤家から救い出すためのものでもある。
優しい尊のことだから、美桜に同情してくれたにすぎないのだろう。
それでもこうして結婚までしてくれた。
それだけでも有り難いことなのに、恋を知らない美桜のためだと言って、本物の新妻のことを愛でるように、とても大事に扱ってくれている。
あんまり優しくしてくれるものだから、本当に愛されているのかと錯覚しそうになるぐらいだ。
ーーもしも叶うのなら、このまま一緒に同じ時間を共有しているうちに、情が湧いて、情からいつしか愛情が芽生えてくれるといいなぁ。
樹里とのことで不安だったはずが、現金な美桜はそんな淡い期待を胸に抱きつつ、尊の身体に寄り添いながら瞼を伏せうつらうつらし始めていた。
「おい、美桜? 疲れてるのはわかるが、こんな無理な体勢で転た寝なんかしてたら余計疲れるだろ」
ふわふわと綿菓子のように柔らかな雲の波間にでもたゆたうような、幸福感のなかに浸っていた美桜は、尊の声にはっとし飛び起きる。