狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
弦一郎が隠居してからかれこれ三年になる。
久しぶりに会ったのが結婚式だったが、その際にも涙を流して喜んでくれていたと言っても、ここまでではなかった気がする。
家元だった頃はもっと威厳があったようにも思うのだが、それだけ年をとったと言うことなのだろうか。
困惑気味の美桜がこれまでにないようなはしゃぎようを見せる弦一郎の言動について思案しているところに、再び弦一郎の明るく朗らかな声が割り込んでくる。
「なーに、気を遣うことはない。幸代は友人と一緒に昨日から旅行に出かけていないから安心なさい」
弦一郎の熱烈な歓迎ぶりに驚きを隠せないでいた美桜だったが、ようやく合点がいったのだった。
どうやら祖母の幸代が不在なのと、薫などへの配慮が必要ないからのようだ。
それに年もとった。確かもうすぐ傘寿を迎えると言っていたし、そのせいもあるのだろう。
美桜がぼんやり思考に耽っていると、すっかりいつもの調子を取り戻した尊に上がり框に上がるだけだというのに、さも当然のことのように、すっと手を差しのべられた。
「それではお言葉に甘えさせて頂きます。ほら、美桜も」
不意を突かれた美桜は頬を桜色に染め上げ胸までキュンとときめかせてしまう。
「は、はい。ありがとうございます」
尊は自分の手に遠慮気味に恥じらいつつ手をそうっと重ねる愛らしい美桜のことを愛しそうに見つめている。
そんなふたりの仲睦まじく初々しい様子を弦一郎は目尻の皺を一層深めてどこか懐かしそうに眺めていた。