狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
奥座敷に招き入れられた美桜と尊は、弦一郎によって床の間に生けられた紫陽花の花を眺めつつ、祖父との楽しい話に花を咲かせていた。
近況を話し終えた美桜が使用人が用意してくれた和菓子を味わい、抹茶を飲み終えようかとしていたときのことだ。
不意に会話が途切れ、ガラス戸が開け放たれている縁側からは、梅雨の晴れ間のお陰で清涼感のある風が緩やかに流れ込み、軒先に吊された風鈴が涼やかな音色を奏でていた。
ちょうどその音に被さるように放たれた、「夕飯も食べていくだろう」という弦一郎からの問いに、尊が「いえ、そこまで甘える訳には」そう告げて、やんわり断りを入れようとしたのに対し。
「そんなに遠慮することはない。儂にとって美桜は可愛い孫だが、尊くんだって可愛い孫じゃないか」
引き留めにかかった弦一郎の口から。
「それなのに……ふたりして、水くさいじゃないか。いくら姪の絹代が亡くなり縁が切れてしまったからって、そんな他人行儀な」
思いもよらない言葉が飛び出してきたことにより、それまで和やかだった場の空気が一変することとなった。
どこか悲しげにそれでいて不服そうな、なんとも表現しがたい複雑な表情の弦一郎は、ふたりの出方を窺うように腕組みを決め込んでいる。
美桜は訳がわからず、思わず弦一郎に問い返すも。
「あの、お祖父さま、なにを仰ってるのか意味が……」
「なんだ。妻の美桜にも黙っていたのか?」
弦一郎は、事態を把握できてない美桜の様子に驚嘆するばかりで、美桜の欲しい返答は得られなかった。
「……すみませんでした。もう随分昔のことなので、てっきりもう、覚えてらっしゃらないものだと」
だが弦一郎の様子からも、美桜同様に驚いた様子を見せたもののたった今頭を下げた尊が弦一郎へ向けた言葉からも、どうやらふたりが以前からの知り合いだったことが窺える。
ーーど、どういうこと? 知り合いだったなんて、そんなの初耳なんですけど。