狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜


「なんでもしますッ!」

「そんなことを簡単に口にするな。これだから世間知らずなお嬢様は」

 キッパリとした口調で言い放った美桜《みお》の言葉に背中越しに一笑した男は、薄く形のいい唇に笑みを微かに湛え軽く咎めてから、呆れたような呟きを落とすとそのまま立ち去ろうとする。

 どうやら男には、美桜の言葉に取り合う気はないらしい。

 それでも、ただの偶然だったとしても、見ず知らずの男に借りを作ったままでは気が収まらない。

 美桜は咄嗟にその男が身に纏っている仕立てのよさそうなダークスーツの袖口をグンと掴んでしまっていた。

 男は驚いているのか、僅かに反応を示してすぐに振り返ってくると、珍しいものでも目にしたように美桜のことをマジマジと見下ろしてくる。

 身長一五六センチしかない低身長の美桜にとって、目測だがおそらく一八〇センチは余裕で超えているだろう高身長の男を見上げるのは少々骨が折れるが、それよりも男の放つ威圧感が凄まじい。

 どこか恐怖心にも似た感情が沸き起こってくるが、男に強い視線で見つめられ目を逸らすことができない。

 艶のある濡れ羽根色の髪はタイトに撫でつけられていて、髪と同系色の切れ長の鋭い双眸と恐ろしく整った顔立ちのせいか、ただ見下ろされているだけなのに、身がすくむ心地だ。
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