狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
それぞれの覚悟
箱根への新婚旅行からもうすぐ一月が経とうとしている。
初恋の相手が尊だったとわかり、お互いに想い合っていることもわかった。ずっと傍にいてくれるとも約束してくれた。
尊は、結婚してから相変わらずのスパダリぶりを発揮してくれてはいるが、一度も『好き』だとは言ってくれないままだ。
はじめは照れているだけだと思っていたけれど、なにか違う意図がある気がして、スッキリしない。
いずれは美桜の元から離れていってしまうのではないかと、美桜は気が抜けない日々を送っていた。
ハッピーフラワープロジェクトの監修としての仕事を始めてもうすぐ四ヶ月、ようやく慣れてきたところだ。
今や美桜は『若き美人華道家』として注目を集めるまでになっていた。
そのため一月前と変わらず多忙を極めているが、尊の配慮によりスケジュール管理をしてくれている樹里のお陰で、なんとか仕事の方も滞りなく熟すことができている。
だが今年の梅雨は一体どこへ行ってしまったのだろうかと思うほど雨の日も少なかったし、八月に入ってからはうだるような猛暑が続いているのもあり、近頃の美桜はいささか夏バテ気味だった。
尊と樹里との関係性に関しては、樹里と身近で接しているうち、その懸念も少しずつ薄れつつあった。
樹里はショートカットのよく似合うスレンダー美人という見かけ同様、とてもサバサバした性格で面倒見もよく、姉御体質で、今では美桜のことを『美桜ちゃん』と呼び、妹のように可愛がってくれている。
言葉では上手く表現できないが、樹里には、さすがは極道組織・極心会の会長である櫂の娘だなと思わせるなにかがあった。
そういう意味では、『尊の妻に相応しいのは樹里のような女性なんだろうな』なんて思ってしまうこともあったが、それはどうしようもないと、幾度となく自分に言い聞かせてきた。