狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
尊は走ってきたのか、乱れた呼吸をしばし整えると、当惑する美桜の元にゆっくりと歩みを進めてくる。
余りの気迫に美桜が動けずにいると、なぜか尊は美桜の前を素通りしてしまう。
ーーえ?
当然美桜の元に来るものと思っていたため、拍子抜けしてしまいそうだったが、尊が医師の着ている白衣の襟首を掴みあげ、地を這うような重低音を轟かせたことで、尊が大変な思い違いをしていることが判然とする。
「お前か。美桜に言い寄ってるって言う命知らずな輩は」
「へ? いえ、僕はただ検査結果の説明をしていただけですが」
「お前、いい加減なことぬかしてんじゃねーぞ!」
けれどもあまりの尊の気迫に圧倒されて美桜は動けずにいた。
と、そこに、ヤスが駆け込んできて、医師に掴みかかっている尊のことを制止し始める。
「あー、こんなとこにいたんすかって。ちょっと社長、堅気に手出したら駄目っすよ!」
「うっせー、離せっ!」
だが尊は聞く耳を持たず、ヤスのことを片手で容易に払いのけてしまう。
「ひぃいッ!」
今にも殴りかからんばかりの勢いで拳を振り上げた尊の姿に、医師が哀れげな声を漏らした刹那。樹里と一緒に櫂までが現れた。
さすがは日本最大の極道組織・極心会の会長と若頭。ふたりともそう思わせるほどの威圧感と凄まじい気迫だ。
そのふたりが今、相見えようとしている。
先程まで尊のことを止めようとしていたヤスは一歩下がった場所で、キラキラと羨望の眼差しをふたりに注いでいる。
尊から開放された医師は力なくヘナヘナと椅子に倒れ込んでしまっている。