狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
「尊。お前、堅気に手出したらどうなるかわかってんだろうな?」
「破門でもなんでもすればいいだろ。そんなもん怖くもなんともねーよ」
「そうだよな。てめーは、お前を厄介払いした奴らへの腹いせにヤクザになっちまった、どうしようもねー野郎だからなぁ。だが若頭の功績をたたえて除籍にしといてやる」
「だから好きにしろって」
以前初めて対面したときとは違いふたりを取り巻く空気が殺気立ってはいるが、互いに襟首を掴みあったまま兄弟喧嘩か親子喧嘩のようなやり取りが続いていた。
そのやり取りのなかで尊は除籍処分になったようだが、さて、どのような処分だろうかと美桜が思案している間に、話は進んでいく。
ヤクザにとっての『除籍』には二通りあり、大抵の場合はクビを意味するが、尊の場合は『引退』ということになる。
だが除籍されれば二度と渡世への復帰はできない。
「その代わり、俺はお前の親代わりだからな、ガキが生まれたらいつでも見せに来い。いいな? 約束だぞ」
「はッ!? ガキってなにわけのわかんねーこと言って」
「ほら、尊、これ見なさい。あんたの子よ。おめでとう……って、あっ、美桜ちゃん、ごめんなさい。言っちゃった」
「ああ、いえ。言うタイミングが掴めなかったので、助かりました」
「ちょっと待て。一体どういうことだ?」
「あら、尊、まだわかんない? あんた除籍されて堅気になったのよ。どうせそのつもりで動いてたんだし、時期が早まって良かったじゃない。それに子供までデキちゃったって言うオマケつきよ。おめでとう、尊パパ」
「ーーッ!?」
そうしていつの間にかふたりの間に割って入った樹里が一週間前に撮影したまだ豆粒ほどの赤ちゃんの姿が写っている四角い紙片を尊に突きつけたことで、美桜の妊娠のことを知らされた尊が言葉を失い呆然と立ち尽くしてしまっている。
そんな尊の姿もお初にお目にかかったが、そんなことよりも尊が極道の世界から自ら退こうとしていた事実に美桜は驚きを隠せずにいた。