狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
あの後。多大な迷惑をかけてしまった男性医師には、樹里と櫂とが周到に用意してあった菓子折を渡し、皆して頭を下げ、なんとか穏便に済ませることができた。
やけに根回しがいいと思っていたら、尊の勘違い騒動は、驚くことに匡と恋人同士であるらしい樹里が企てたことだったらしい。
なんでも樹里は、美桜の妊娠発覚と病気疑惑の最中、匡から尊が極道の世界から足を洗うために秘密裏に奔走していると言う事実を知り得たのだという。
だが慎重なあまりなかなか行動に移そうとしない尊に焦れた樹里は、余計なことに首を突っ込んで拗らせるなと、匡が止めるのも聞かずに、ヤスを利用して尊のことを焚きつけ、あんな事態になったようだ。
そのお陰で、これまで好きだと言ってくれなかった理由も、美桜に相応しい男になるためにも極道の世界から足を洗ってけじめをつけるまでは伝えられないという考えがあったからだと知ることができた。
尊の美桜に対する気持ちがどれほどのものであるかもわかったし。
ヤスからも、実は尊が美桜の高校生だった時分から、色々気にかけてくれていて、様子を見るよう命じられていたこと。その際に、撮った美桜の写真を渡していたが、それを札入れに忍ばせ、肌身離さず大事にしてくれていたことまで、こっそりと教えてもらった。
ずっとひとりじゃなかったんだ。
遠くから見守ってくれていたんだ。
幼い頃の記憶はとても朧気で曖昧だけれど、尊との出逢いはきっと運命だったに違いない。
そう思うと、胸に熱いものが込み上げてくる。
美桜は話に耳を傾けつつぐっと涙を堪えて、まだ変化の見られない自分のお腹にそうっと手を重ね合わせ、言い尽くせないほどの喜びを噛みしめていた。
事態が落ち着いた後には、予定していた産婦人科での診察に夫である尊が付き添ってくれて、一緒にエコーの画像を見ることができた。