狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
美桜はそれを遠い意識の外側で感じていた。
しばらくして、横並びに座していた、上機嫌な薫の一際明るい笑い声が響き渡り、驚いた美桜は思わず肩をビクッと跳ね上げてしまう。
我に返った美桜は、自身の失態を薫に咎められやしないかと内心肝を冷やしていた。
けれど薫には特に気にした様子は見受けられない。
ようやく笑いを収めた薫が再び見合いの進行を始めたため、ホッと安堵の息を漏らしかけたところへ、薫から不意でもつくかのように。
「お互い趣味が合うのもわかったことですし。そろそろ、若いおふたりにお任せして、私たちは席を外しましょうか?」
どこかで耳にしたことのあるような、見合いの席につきもののお決まりの台詞がとうとう投下されてしまっていた。
その声に弾かれるようにして、美桜が反射的に相手方に意識を向けると同時。
「そうですなぁ。いやぁ、それにしてもお美しいお嬢さんだ。もっと若ければ息子ではなく私が結婚したいくらいですなぁ」
薫の言葉に賛同した相手方の父親がお世辞と冗談を寄越してきたのだが、その口吻がやけにねっとりとした厭らしい響きを孕んでいるように聞こえてしまう。