狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
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ちょうど今と同じように天澤家の和風庭園には、ソメイヨシノの桜が咲き誇っていた。
いつもなら幼いながらもしゃんと背筋を正し華道に励んでいるはずの美桜の姿がないことを案じた尊が、離れの縁側で膝を抱えて泣いている美桜を見つけ機嫌をとろうにも、美桜は泣くばかりで一向に泣き止む気配がなかった。
それでもなんとか美桜のことを泣き止ませようと必死だったのを今でも覚えている。
今にして思えばその頃から尊にとって美桜は特別な存在になっていたのだろう。
『メソメソしてたら幸せが逃げてくぞ。だからもう泣くな』
『みお。しあわせなんかじゃないもん。かおるさんもいえもとも、みおのこときらいだもん』
『だったら俺が幸せにしてやる』
『ほんとに?』
『ああ、ほんとうだ。けど、泣いてばかりいるガキは嫌いだ。だからもう泣くな』
『ほんとにほんと? うそじゃない?』
『ハハッ、ガキのクセに疑り深い奴だな』
『だって』
『そんなに言うなら、約束してやる。お前の好きな指切りげんまんだぞ。ほら』
『うん! じゃあ、やくそくね』
『ああ』
『ゆーびきりげーんまん、ゆーびきった!』
『はやっ。いくらなんでも端折りすぎだろ』
『ゆびきりできたらいいんです〜ッ!』
ふたりが笑い合っている周りには、はらりはらり……と桜の花弁が絶えず舞い降りていた。
そのうちの一枚が美桜の頭に舞い降りて、それを尊が自身の掌にのせて美桜に差し出してやると。
『わ〜、みおのおはなだぁ!』
美桜の顔からは涙はもうすっかり消え去っていて、ぱーっと花が咲いたように笑顔の花を綻ばせた無邪気な美桜の姿に、尊の視線は心ごと惹きつけられていた。今と同じように。
今も昔も変わることなく、互いを想いあい、仲良く寄り添いあって、笑顔の花を綻ばせるふたりの周辺に、はらりはらり……と絶えず降り積む薄桃色の可憐な桜の花弁のように、きっとこれからの未来も、幸福に満たされているに違いない。
~END~